
日本音響学会音楽音響研究会資料 サヌカイト楽器・円響・の振動解析 -形状とモード周波数の関係- 狩野謙二、岸憲史(電気通信大学) 2001年3月24日 日本音響学会 Vibration AnaIysis of the Sanukite Instrument“Hensyo” サヌカイトという特珠な溶岩を使って様々な楽器が作られている。その楽器の中でも円響と方響はそれぞれ円柱や角柱に円筒形の溝を彫ったもので、独特な構造となっている。本報告では、円響の形状とモード周波数の関係を有限要素解析を用いて調べた。その結果、円響の振動モードには、内部円柱が片持ちはりのように振動する基本曲げモードの他、方響の振動に現れなかった(2,0)モードおよび(2,1)モードが存在し、これらのモードが音色に影響を及ほす可能性があることがわかった。また、円響の形状を変えることで、これらのモードの周波数比を変化させることができ、音色の調整が可能であることもわかった。 1. はじめに 独特な材料サヌカイト(石器時代に「ヤジリ」などに利用されていた)を用いた楽器は大きく4つに分けられる。そのうちの石宗(そう)には角柱に円筒形の深い溝を彫った「方響」と円柱に同様の溝を彫った「円響」と呼ぶものがある。従来、「円響」は「編鐘」と呼んでいたが、研究会の意見も考慮して本稿より学会に発表する際の呼称を変更した。方響を用いた研究で、このような複雑な構造の振動解析には有限要素法が有効であることがモータル解析と音の分析によって示されている。そして、円響の振動解析にもまた、有限要素解析が有効であることがわかっている。その中で、基本モードを含むいくつかのモードでは、内部円柱棒を一端固定、他端自由とした棒の1次元近似理論と良く一致することがわかり、このような構造は実用的にも学術的にも興味があることを示した。 本報告では、異なる寸法の円響について、汎用構造解析プログラムNASTRANを用いた有限要素解析と、実際の円響を用いて行うモータル解析および円響の音の分析を行い、その振動の様子を明らかにする。さらに、円響の形状とモード周波数の関係を調べ、楽器としてのピッチの調整法やうなりの制御法についても調べた。 2. 有限要素解析 解析は、実際の円響の寸法をNASTRANに入力し、これを要素に分割して有限要素モデルを作り、解析する。要素の分割には六面体および五面体アイソバラメトリック2次要素を用い、分割数は120要素711節点とした。ただし、「うなり」を与える目的で、内部円柱と外枠の中心軸は1.4mmずらしてある。この解析により得られたモード周波数を表3に示す。表3におけるずれの計算は、モータル解析で2つの周波数を分離できていないモードについては得られた一つの値を用いて行った。 モード次数 モード形状とモード記号 1 内部円柱の1次曲げ振動 Fl 2 内部円柱の1次曲げ夜勤 Fl+ 3 l次ねじれ夜勤 Tl 4 内部円柱の2次曲げ振動 F2 5 内部円柱の2次曲げ振動 F2+ 6 鐘の基本モード (2,0) 7 鐘の基本モード (2,0)+ 8 外枠のl次曲げ振動 01 9 外枠の1次曲げ振動 01+ 10 (2,1)モード (2,1) 11 (2,1)モード (2,1)+ 12 1次たて板動 Ll 13 2次ねじれ振動 T2 円響の振動モードには方響では見られなかったいくつかの特徴がある。まず、外面が円筒面となっているため、ねじれモード(Tl、T2)は励起しにくいし、励起できたとしても外粋が円筒面であるために昔として放射しない(しかし、モードとしては存在する)。
また、新たに鐘(ベル)類やグラスハープなどの基本モードである(2,0)モードおよび(2,1)モードが存在し、音色に影響を及ほす可能性がある。これらのモードでは、内部円柱はほとんど振動せずに外粋が大きく振動する。なお、この(m,n)の板動モードは円周に2m(m=1.2)個の節を持ち、側面から見た節の数がn個あることを示している。図2に円響の振動モードのうち、主な振動モードである基本モード、(2,0)モード、および(2,1)モードの断面図および底部から見た図を示す。表3には、先に求めた有限要素解析によるモード周波数と実験的に求めたモータル解析によるモード周波数を比較して示し、両者のずれもパーセントで示した。これを見てみると、(2,0)モードおよび(2,1)モードのずれが他に比べ大きい。これは、現在調査中であるが、異方性と関係している可能性がある。 3. 音の分析 円響を無響室内で叩き、そのときの音をDATに録音した。波形の包絡線からきれいな「うなり」(周期93ms)が確認されたく図3)。次に、その音のFFT分析を行った。その結果円響のスペクトルは基本モード(Fl)が最もレベルが高く、ついで鐘類の基本モードである(2,0)モード、(2,1)モードのレベルが高いことがわかる。したがって、円響のピッチはFlモードで決まりほぼ正弦波になること、レベルはFlモードに比べて-50dBと小さいが(2,0)モードと(2,1)モードが若干音色に影響を与え、この2つのモードも縮退が解けていることがわかる。
これら3つのモードに着目して有限要素解析を行い、円響の形状・寸法を変えた場合にモード周波数がどのように変化するか、その関係を調べた。ただし、この解析で用いる円響のモデルは、一般性を持たせるため内部円柱と外枠の中心軸を一致させ、円響全体を完全な軸対称形状としている。そのため、異なる2つの周波数を持つ同一モードは全て縮退し、周波数が完全に一致している。方響の場合と同様に基本モード周波数(ピッチ)は槻略内部円柱の振動で制御されることがわかる。 4.2 内部円柱の太さとモード周波数の関係 次に、内部円柱の太さを変えてモード周波数の変化を調べた。なお、解析は内部円柱と外枠との溝の帽は変化させずに行ったので、外枠の質さは内部円柱が太くなるにしたがってより薄くなっていく。この形状変化は基本モードをあまり変化させずに高次部分音と基本モードの周波数比を調整するのに有効で、方響では得られなかった利点の一つと言える。また、これらの周波数比は、a/a0≧1.0では急激に小さくなり、これにつれて外粋が尊くなるために、これらの放射音正レベルも大きくなり、音色に大きく関与することが予想される。 4.3 基部の厚さとモード周波数の関係 さらに、内部円柱と外枠との結合に関与していると思われる基部の厚さを変化させた場合の解析も行った。基本モードと(2,1)モードのモード周波数は基部が薄くなると若干ではあるが下がる傾向にある。これは、基部が尊くなると内部円柱と外枠の固定の度合いが弱くなって、基部も一緒に動き、円板の軸対称曲げ振動のような振動をするためと考えられる。 4.4 溝の幅とモード周波数の関係 円筒状の溝の幅を1〜10mmまで変化させてモード周波数との関係を調べた。ここでは、内部円柱の径を変えて溝の幅を変化させた場合と、外枠の厚さを変えて溝の幅を変化させた場合について解析を行った。その結果、内部円柱の径を変えた場合のモード周波数は溝の幅が大きくなれば基本モードの方は溝の幅と逆比例的に下がるが、高次モードの周波数は溝の幅に関係なくほぼ一定であることが解った。一方、外枠の蜃さを変えた場合は基本モードはほほ一定であるが、(2,0)モードと(2,1)モードの周波数は溝の幅が大きくなるにつれ下がる。これは、外枠の厚さが青くなれば外枠のみが振動する(2,0)モードと(2,1)モードが励超されやすくなるためである。したがって、溝の幅を外枠の厚さが変わるように変化させれば、ピッチをあまり変えないで高次部分音と基本モードの周波数の比を調整できることがわかる。 4.5 内部円柱のずれとモード周波数の関係
最後に、軸対称性をくずし内部円柱と外枠の中心軸をずらしていった場合のモード周波数の関係およびうなりの周波数の変化を調べた。両図から内部円柱をずらすことで特に2つの基本モード周波数間の幅くうなりの周波数)を変化させ(2,0)、(2,1)モードも縮退モードなのでこれらのモードの縮退を解くことができることがわかる。また、周波数比をほとんど変えずにうなりの周波数のみを制御できることがわかる。図12において音の分析で得られたうなりの周波数から内部円柱のずれを求めると1.8mmとなり、標準円響の有限要素モデルとは0.4mmのずれがでる。
本研究とは別に、サヌカイト材料の研究(卒業研究)でサヌカイト板状の試料には、面内等方性を示す材料と面内異方性を示す材料があることがわかり、ヤジリの軸とその垂直方向で性質が異なる一軸異方性(一方向に分極した庄電セラミツクと似ており、結晶学上クラス6mmに対応する)を持つことが予想される。 本報告の解析で、円響の振動モードには、方響の振動に現れなかった(2,0)モードおよび(2,1)モードが存在し、これらのモードが音色に影響する可能性があることがわかった。 また、円響の基本モード周波数は方響の場合と同様に、おおよそ内部円柱の片もちはり的な振動で制御されていることがわかった。また、基部の長さまたは外枠の直さを変えることで音色に関連する3つのモードの周波数比を変化させることができ、それにより音色の調整が可能であることがわかった。 今後、円響の異方怯も考慮した解析を行い、うなりとの関係を調べる。さらに、様々な形状での内部円柱と外枠の振幅比を調べ、円響の音色との関係を調べる。そして、有限要素解析により得られた結果から、実際に音の大ききと音色などバランスの取れた楽器の寸法を決定し、その寸法の楽器を実際に作って貰い、予測通りの音が出るかを確認する予定である。
日本音響学会音楽音響研究会資料 1998
一長さとモード周波数の関係− 岸憲史 須賀井政教 小谷津稔 (電気通信大学) The University of Electro−Communications
日本音響学会音楽音響研究会資料 1994
日本音響学会音楽音響研究会資料 1992 石を用いた楽器の打撃音
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